トンボに合わせて紙を裁断する。
同じ動作を繰り返し、繰り返し。3月に始めた作業は、2ヶ月たった今もまだ終わりは見えない。
流しっぱなしにしていたYoutubeから、はじめて聴く音楽が流れる。
我が家は古い冷蔵庫のブーンという音だけを残して、しんと静まり返っている。
紙を裁断するザーッという音と、音楽と。
僕は思考の中で、真夜中をドライブしている。
街灯の下、対向車が一台も来ない一人のドライブだ。
もわんとした空気の中、甘いボーカルの声と、軽快なギターリフが車をどんどん進めていく。
・・・
行き先には何が見える。
この音楽の連れていく先は、思い出す。はじめて聴く音楽のはずなのに、どこかで聴いたことがあるのだ。
甘いメロディー。どこかで聴いたことがある。この感じは、そうだ。フジロック。
昔のミツメだ。2013年のフジロック。ルーキー・ア・ゴーゴーで聴いたミツメだ。
昔の僕たちが見える。走っている、笑っている。何も知らなくて、なにもかもが新しくて。
まだ僕たちは、夫婦ではなく、社会人でもなく、ただまっすぐで恐れがなかった。
僕たちの未来には輝きしかないと信じていた。
6年経って、会社に入って、結婚して、世界一周を叶えた。
輝けるものなんてないと絶望するほど不幸ではなかったが、輝き続けるほど人生は単調ではないということも知った。
僕たちだけで生きていけると思っていた世界が、広く、そして、狭くなった。
ただ、単調にしか見えない道でも、歩んだ先にしか希望は見つからないことに気づいた。
いつも穏やかに必死だ。平泳ぎでバタ足だ。
・・・
Swimming Tapesがなまぬるい風を運んでくれる。
昼下がりの焦げた砂浜の香りがする。
あの日のミツメ。一緒に食べたラーメンの白いプラカップ。雨でくるんと巻いている髪の毛。
全部乗せて、いろんなもの、これからのものをすべて、あたたかくしてほしい。
明るくやさしく照らして、迷いなく進んでほしい。輝きの先へと。