毎日連載中|夫婦世界一周エッセイ

旅の錆び

10:00。

部屋をすみずみまで綺麗にし、ぱんぱんに膨れ上がった2つのオスプレイを共有リビングルームに置いて、フウロと二人でソファに座っていた。

今日の予定は22:25にリスボン:オリエンテ駅から出発する深夜バスに乗り、マドリッドに移動するだけ。

あと10時間なにをして過ごそう。

あてもなく外を散歩することにした。

当初の予定では共有リビングルームで時間を潰そうと思っていたが、それはできないとホストに言われてしまった。

運悪くその日のリスボンは冬に足を踏み入れたようで、昨日までの気候とは一変していた。

太陽は一段と弱々しくなり、台風でも近づいているのかと見紛うような風が吹き荒んでいた。

 

・・・

 

宿の前には大きな公園に行ってみることにした。

滞在中一度も入ることがなかったそこに入ってみると、ぼろぼろになったフェスの広告があちこちに貼ってあった。

Rock in Lisboaという大規模野外フェスが6月の終わりにここで行われたらしかった。

ここでMUSEやBruno Marsがライブをするというのはイメージが湧かなかった。しかも彼らのアクトは23:00から。

団地が立ち並ぶこの一角で行われたフェスはどんな感じだったのだろう。

きっとめちゃくちゃうるさかったろうな。来年も同じ場所でやるんだろうか…

少し興味がわきつつ、ライトダウンを貫通して体温を奪っていく風に耐えかねて、行きつけのスーパーに行くことにした。

いつもスーパーに行くために歩いていた道の信号は、強風によって90度折れ曲がっていた。

信号が強風で根こそぎやられる。

日本ではありえないそんな異常な状況に直面しても、そこまで心動かされない自分がいた。

スーパーのフードコートで暖をとりながら時間を潰していると、ふと自分がなぜここにいて、何がしたくてポルトガルまで来たのかわからなくなった。

中心街の観光地に行くのはせいぜい二日にまで短縮され、観光スポットも行くとしたら1箇所程度。

その理由は、ヨーロッパの施設入場料が高いだけではなかった。

新しいもの、新しいことに触れる神経が、少しずつ摩耗して来ているような気がした。

日本人が僕とフウロしかいないフードコートでも堂々と居眠りできるような図太さを手に入れた代償は、確かに大きかったように思う。

 

・・・

 

スーパーとオリエンテ駅近くのショッピングモールで時間を潰し、ようやく出発の時間が迫った。

バスターミナルに行ってみるが、大きなロータリーがあるだけで、なんのバスがどこから出発するのかはよくわからなかった。

チケットに書いてあったC30という番号を頼りにターミナルを巡ってみると、C30の番号が書かれたバス停には、同じように心配そうな顔を浮かべている貧乏旅行者たちがたむろしていた。

バスに乗り込む時には案外すんなりいったものの、10時間かかってマドリッドに着き、寝ぼけながら荷物を下ろして歩いていると、どうやら空港ではないということに気が付いた。

慌てて戻ったが、もうすでにバスは出発したあとで、出さなくてもよかった5ユーロを払い、空港までたどり着く。

ようやく一安心だと思い、いつものようにラウンジまでたどり着き、プライオリティパスを取り出すも、なぜかフウロのカードだけが見つからない。

手荷物を全てひっくり返しても出てこないプライオリティパスに焦り、絶望しながら、それでもあと8時間を空港の硬いベンチで過ごすにはくたびれきっていた僕たちは、追加で3000円を出してラウンジに入ることに決めた。

 

・・・

 

旅の錆びのようなものだな。

ふと、そんなことを思った。

僕たちの旅のスピードはとても早かった。目まぐるしく動き周り、各国で紙を作り動画を作り。

アジアを抜けて、全速力でヨーロッパを抜けようとしたときには、いつの間にか自分の体の周りにあったメッキがすっかり剥げて、錆びだらけになっていた。

ヨーロッパにはどこか昔僕が体験した記憶をなぞるようなところがあって、その錆びをさらに加速させたような気もする。

きっとここには思考の限界があって、今僕は、それを突き抜けられるかどうかの狭間に立っている。

「モロッコの砂漠にはいい錆び落としがあるらしい。」

僕が言った言葉に僕を信じこませて、アフリカを目指す。

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