車の魅力はマニュアル車にあり。と車好きでもなんでもない僕は信じている。
東京出身にしては、車には乗ってきたほうだ。20代でマニュアル車歴2台目という人に未だ遭遇したことがないし、妻も同じ車に乗っているとなると、そうそういない。
そもそも東京出身の友達たちは車自体持っていない。我々90年代にとって、車はすでに憧れのステータスではなく、いつになったら持てばいいの?と疑問符が付く代物になりつつある。
父は車好きだったが、僕は昔から車に興味は抱かなかった。車に関する思い出といえば、小学校のころ、休日に家族が乗っていたトヨタのソアラが廃車になり新しい車がやってきて大泣きしたことぐらい。
僕は車がことさら好きなわけではない。ごりごり改造するわけでもないし、車内を土足禁止にするほど愛でてるわけでもない。でも、マニュアル車は車好きでもそうでなくても、運転しがいがあるし、そこそこ面白い。今日はそんなマニュアル車のことについて、ちょっと話そうと思う。
はじめての車は15年落ちのワーゲンのゴルフだった。AT車。友達が先輩から譲り受け、後に友達から更に譲り受けた。2015年のことだった。
年式はそこそこいっていたとはいえ、天下の外車。それもゴルフだ。シートヒーターはついていたし、スピードメーターは使わないでしょ?と思う260あたりまで刻まれていて、市街地でアクセルを踏むとあっという間に60キロまで加速。デビュー戦にはもったいないくらい高級な車だったし、多分僕たちはこれから先もゴルフ以上に高級な車を手に入れることはなさそう。
ただワーゲンだけに、故障もすごかった。数ヶ月で下面のカバーのネジが外れ地面を擦るようになり、天井パネルはダルンダルンにたわんで頭に常についていた。それでも車検が通ればいいやと思いディーラーに持っていくと、ブレーキオイルが漏れていて修理に50万円かかると言われ、手放す決心を下す。
次に乗った車が、初代MT車。パジェロミニだった。
パジェロミニとは、文字通りパジェロのミニチュア版。ついでに言うとパジェロとは、東京フレンドリーパークⅡの「パージェーロ!パージェーロ!」と掛け声があって、大抵たわしが当たるあのときのアレだ。
さて、このパジェロミニ、とにかく人気がない。
パジェロミニは本場パジェロほど馬力があるわけではなく、軽自動車SUVとしてはジムニーと比較されることがままあるが、こちらも馬力や構造的に全く敵わず、あらゆる面において中途半端と揶揄される可哀想車というイメージを持たれることが多い。
更に初代のパジェロミニは、絶対使われないだろうと思われるシルバーのカンガルーバーと、濃霧ではまったく効果がない明るさの黄色のフォグランプを備え、4WD+背中にはタイヤをつけているため車体はがっつり重めで燃費は10キロいけばいい方。極めつけにこの時代の三菱車特有の3速ATが大変な頻度で故障するため、買うならMT一択という短所の掛け算のような車だった。
でも僕たちにとっては一周回ってチョロQのような風貌が可愛らしく、内装も軽自動車にしては凝っており、MT車は僕も妻も一応持っていた。MTのほうが燃費がいいという噂を信じ、10万キロを超えていた深緑色のパジェロミニを、一ヶ月分の給料で買ったのだ。
初代パジェロミニは、それはそれは可愛い子だった。エンジンをかければシャーン!とどこからともなく高音の回転音が鳴り響き、そこそこ静音だと思っていたエンジンは60キロを超えた途端に轟音に切り替わり、高速では大声でなければ会話が成り立たなかった。
ドアはペラッペラに薄く、たまに実家に帰るとトヨタのヴィッツのドアの分厚さにたまげたものだ。
そんなことはいいとして、マニュアル車の話である。ギアチェンジが覚束なく、神輿に担がれているのかと勘違いするほど上下に揺り動かされていたのも今は昔。ほどなくして僕も妻も、運転はマニュアル車に限ると惚れ込んだ。
信号が青に切り替わり、加速する毎回が戦いのよう。いかにスムーズにギアチェンジができるか、タコメーターを見ながらタイミングを計ることもあれば、音だけで変えてみるのもオツなもの。オートマのゴルフには感じられなかった車の「おもちゃ感」が、運転を操ることの楽しさを教えてくれた。
初代パジェロミニにはそれはそれは愛着があって絶対に車検を通すと息巻いていたが、ブレーキ関連に致命傷を負っていることが判明し泣く泣く二年で手放した。
それからアルトラパン・ムーヴラテと金欠のためひたすら安いオートマ車を乗り継ぐ暗黒期を経て、昨年夏ようやくパジェロミニ2代目を手に入れることができた。もちろんマニュアル。
残念ながらカンガルーバーとフォグランプがついたダサかっこいい初代は見つからず、二台目らしく二世代目のパジェロミニへと乗り継ぎになった。多少ドアが分厚くなり、リモコンキーが採用されていて嬉しい反面、温度・高度計が無くなってしまってガジェット感が下がったのは残念だけど。
マニュアル車もとい、パジェロミニの話であることはほぼ感づかれているかと存じます。結局マニュアル車が好きだという人は、その乗っている車そのものが好きなのだ。
マニュアルというのはその車の個性を引き出させる調味料に過ぎない。でも、多分僕たちはパジェロミニのオートマがめちゃくちゃ機能が良かったとしても、一生乗ることはないだろう。マニュアル車という調味料は、インド料理におけるクミンぐらい重要なスパイスだと思っている。
一説によると、パジェロミニの市場出回り率は1:9でオートマがほとんどらしい。そこそこ出回った車なので田舎ではそこそこすれ違う機会が多いパジェロミニだけど、車含めご高齢の方々ばかり。いつか同世代の車好きでない人たちの中で、パジェロミニが熱狂的な人気が訪れないかと、密かに期待している。
表紙の写真はモロッコ旅行で見つけたパジェロ。パリ・ダカールラリーで優勝しただけあって、砂漠が映えます。
